寿栄 食の物語(みぃちゃん)

春のやわらかな風が、キャンプ場の木々をゆっくり揺らしていた。

おじいちゃんは炭を並べながら、ふっと笑った。
「この匂い、覚えてるか?」

パパは少し照れくさそうに笑い返す。
「覚えてるよ。子どものころ、毎年ここでバーベキューしてたやん」

お婆ちゃんは折りたたみの椅子に座りながら、懐かしそうに目を細めた。
「あなたたちが小学校のころやね。もう三十年も前になるんやねぇ」

そのそばで、孫娘が元気よく声をあげた。
「ねえねえ!早くお肉焼こうよ!」

ママがくすっと笑う。
「ちょっと待ってね。カレーも作るから、楽しみにしてて」

鍋の中では、じっくり炒めた玉ねぎが甘い香りを立てはじめていた。
その匂いに、パパの記憶がゆっくりとよみがえる。

——夕暮れのキャンプ場。
小さかった自分が、父の背中を見ながら火を起こすのを手伝っていた。
母は同じようにカレーを作り、少し焦げた鍋の底を「これが美味しいねん」と笑っていた。

「なあ、お父さん」

パパは静かに声をかける。
「俺、あの時のカレー、今でも忘れられへんわ」

おじいちゃんは炭に火をつけながら、ゆっくりとうなずいた。
「そうか。それはうれしいな」

やがて、ジュウッという音とともに肉が焼け始める。
香ばしい匂いが広がり、みんなの顔が自然とほころぶ。

「できたよー!」とママが声をあげると、孫娘が駆け寄った。
「わあ!いいにおい!」

木のテーブルに並んだのは、こんがり焼けたバーベキューと、湯気の立つカレー。
どこにでもあるような料理なのに、どこにもない特別な味がそこにあった。

「いただきます」

みんなの声がそろう。

一口食べた孫娘が、ぱっと笑顔になる。
「おいしい!これ、ずっと食べたい!」

その言葉に、おじいちゃんとお婆ちゃんは顔を見合わせた。
そして、やさしく笑った。

「また来ような」
「何回でもな」

夕日がゆっくりと山の向こうへ沈んでいく。
オレンジ色の光の中で、笑い声がやわらかく広がった。

三十年前に始まったこの時間は、形を変えながら、今も続いている。
火のぬくもりと、料理の香りと、家族の笑顔。

これからもずっと——
みんなで楽しく、美味しいものを食べながら。

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